2017年最後のプライベート・イベントとして、ちょっと神戸へ行ってきた。
この “ちょっと” というのが ちょっといいなと自分では思っている。
新幹線は帰省ラッシュで超満員。
前日に指定席を予約しようとしたが出来なかった。
まあ、なんとなく東京へ行くよりいいか、と妙な開き直りで自由席の扉の前に並ぼうと名古屋駅のホームへ上がると、ちょうど先発の車両が発車したところで、運良く列の先頭を獲得した。
きっとこれは今年の運の重箱の隅にあったごまめほどの良運の残りなのだと思って、ほどなく到着した博多行きののぞみに乗り込んだら、やはり現実は厳しくて、通路に立つことになった。
とりあえず京都駅での乗降で目の前の席が空くことに期待してぼんやりとやり過ごした。
京都駅で背中側のカップルが席を立ったが、振り返る前に隣の若者2人組がすっと座って、これが列車内の席取りゲームの厳しさよ、と、諦めかけたその時、完全に停車する少し前に目の前の3列席の窓側のサブカル女子がイヤホンをくるくるとしまい、テーブルをたたみ、荷物置きのキャリングケースを下ろそうとして、通路側のサラリーマンがそれをサポートし、彼女は真ん中の席の女性に すみませんと言いながら僕の顎のあたりをいい匂いの柔らかな髪の毛で撫でながら通路に出た。
いろんなラッキーに小躍りしそうになるのを抑え、その窓側の席へ潜り込もうとしたら、真ん中の席の女性が窓側へずれたから、なおさら席を確保しやすくなって、通路側のサラリーマンの膝の前をすみませんと言いながらすり抜けて、僕はめでたく超満車の新幹線の自由席を自由に使えることとなった。
窓側に移った女性は、元の席の前席の背もたれの網袋に、なんかいろんなお菓子とか文庫本とかポータブル・オーディオ・プレイヤーと、それに巻きつけたイヤホンコードとか、こまごまと詰め込んでいたから、窓側の席から、彼女が座っていた席の新しい主になった僕に、すみませんと言いながら、それらを今の自分の目の前の網袋へと写す作業をしている時に、のぞみ号は再び西へと走り出した。
網袋が空になる最後の引っ越し荷物はチョコレートが1粒ずつ小分けになっている袋だった。
彼女がそれを取り出して自分の前に移す時に、僕の顔を見た。
僕は一瞬、少し背中を背もたれに押し付ける(というほど力は入っていなかったけど)形になって、彼女の顔を見た。
「よろしかったらどうぞ。」
なんということだ。
彼女はその小分けのチョコレートを1つ取り出してくれた。
「ありがとうございます。」
と自然に言ったつもりだったが、もしも録音されていたら「え?あ、ありがとうございます。」だったと思う。
「どちらまでですか?」
と聞かれ「新神戸までです。」と答え、受け取っらチョコをこ袋から出して「いただきます。」と続けた。
「私は岡山です。」
「帰省ですか?」
「はい。帰省ですか?」
「いえ、友人に会いに行きます。」
「いいですね。」
たぶん京都と新大阪の真ん中あたりに差し掛かるころに、会話は自然な流れでフェードアウトし、けれど、彼女の遠足のお菓子的ないろんなお菓子は僕らの共有のものとなり、それをつまみながら彼女も僕も文庫本を読み始めていた。
本を読むために彼女はカーテンを下ろした。
車窓の外を流れる景色が消え、僕らの席は隔絶された空間となったから、新大阪手前から新神戸の間の外の様子がまったく見えなくなったことだけがちょっとだけ残念だった。
という、カメラを回さない旅番組みたいな不思議な出来事があって、のぞみ号は新神戸に到着した。
では良いお年を、とお互いに言い合って、窓側の彼女とは別れた。
通路側のサラリーマン(と思しき男性)は思いっきり爆睡していたので、起こさないように彼の膝をまたいで通路から車外へと出て、ホームから彼女が座っているあたりの窓を見たら、カーテンがすっと上がって、彼女が小さく手を振ってくれたから、僕も小さく手を振り返しておじぎをした。
と、いうことで、ここからは のぞみ号が新神戸駅のトンネルに消えたあとの写真をどうぞ(笑)
※追記:PCブラウザだと写真の左右が少しだけ切れて表示されちゃてるのでクリックでまともに表示されます。
新神戸から北野の異人館エリアへ。
おそらく今夜から明日にかけては大賑わいになるであろう北野天満神社へ。穏やかな年の瀬に風見鶏も静かに街を見下ろしていた。
北野町広場ではジャグラー、マジシャン、書家、絵師などが大道芸と露店を開いていた。オランダ、ベルギー、オーストリアのエリアでホットワインをちょいと入れて坂道と小道をぶらり散策。
英国館では外国人老若男女と日本人の若い女子グループのシャーロック・ホームズがうろうろしていた。
英国館の床。
快晴のベイカー・ストリート。反射的に「霧のベイカー・ストリート」が思い浮かぶ貧相な思考(笑)
ワトソン博士のコートと帽子、鏡の中にはホームズ。
向こうへ突き落としてやりたくなるハンプティ・ダンプティ。
神戸といえばパンと珈琲ということで、人気の ル・パン神戸北野 へ。クロックムッシュとミルクフランス、ゴルゴンゾーラと蜂蜜のカンパーニュを選び、店先の椅子で食べた。うまかった。うまかったが、夏に取材で回った愛知県豊橋市の14のパン店とさほど大きな違いは感じられず。言い換えれば豊橋の14のパン店はどこも素晴らしかったということだ。と、パン特集を担当させてもらった取材ライターは思った(笑)
神戸といえば珈琲、とさっき書いたが、実は神戸といえば紅茶だそうだ。今回は紅茶専門店までは足を伸ばせなかったが、次回はぜひ飲んでみよう。
ということで、前半はここまで。後半は大晦日のあれやこれやを片付けて余力があれば。